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難しいことを解決すれば喜びに変わる

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今回は、事例集連続企画で、リードタイム管理についてついに最後の回になります。管理の4つのポイント「①提供するサービスの明確化、②生産から供給までのサイクルの構築、③受注管理の徹底、④物流ルートの検討と選択」について、④の物流ルートの検討と選択についてお話したいと思います。今回のテーマは、物流サービス事業者にとって非常に重要なのですが、それと同時にこの仕事に関わっていない方には、一見小難しく感じるものです。とりあえず、ある食品メーカーが、製品の配送をどのように実施しているのかを、事例として説明いたします。

   

ある食品メーカーAは、全国の食品小売店や業務店に加工食品を供給している食品メーカーです。A社は、自社の製品を安定に生産しつつ、また工場での物流作業の負荷を減らすために、顧客までの配送を中間流通事業者(いわゆる問屋)経由で行っていました。しかし、顧客の寡占化や、販売会社の専門化、価格競争の激化により、今までのような幾重もの中間流通を存続させるだけの利益をメーカーが確保できなくなりました。A社は、生産と物流の構造を変革せざるをえない環境になり、現状の配送拠点の再配備を検討し始めたのです。わかりやすくご理解頂くために、単純化して説明すると、配送センターの配置は、リードタイム(必要時間)と配送圏の距離によってきまります。例えば、問屋から当日午前中に受注して当日午後に納品するなら、リードタイムは6時間で平均的な配送できる範囲は20キロとします。それを基準にすると、当日午後に受注し翌日午前の納品ならリードタイムは12時間、配送できる範囲は拡がり40キロ。リードタイムが18時間なら配送圏は60キロと単純にはなります。ただ、このリードタイムと配送圏の距離の関係は、固定的なものでもありません。なぜなら、リードタイムは次の式で示されるような要素や条件によって変わるからです。

   

LT:リードタイム=

     OT:オーダリングタイム+HT:ハンドリングタイム+DT:デリバリータイム+IT:アイドリング・ウェイト・ロスタイム

     (必要時間=受注処理時間+倉庫内処理時間+配送時間+待ち及び渋滞など無駄時間)

   

配送できる範囲の距離は、配送時間できまりますが、その他の所要時間が変わることによって必要時間のうち配送に使える時間は変わってきます。それは、企業の事情によって異なり、今回のA社では、6時間に対して配送圏の距離として20キロを基準とすると、細かい計算は省きますが理論上30ヶ所の配送拠点が必要となっていました。この構造は、リードタイム計算式また、例えば大変細やかな物流作業(お中元やお歳暮などのセット組みとかラッピングが必要な商品など)には、倉庫内処理時間が多く必要となるために、配送にかけられる時間が減少します。これにより6時間20キロより遥かに配送効率が低い配送圏になり、納品するための配送拠点は反比例して増えてしまいます。

   

今まで取引していた問屋を除いた商品供給を出来る限り円滑にするために、A社は納品のための配送拠点の他に、広域流通センター(RDC:Regional Distribution Center)による設置を検討することにしました。RDCの設置は、生産拠点とそれを結ぶ顧客への配送拠点の間、単純に配送センターを集約するということではなく、配送できる範囲と物量を把握して、配送拠点を絞り込みながら物流ネットワークを組んでいく、つまり納品量を起点として、時間と場所を設計する作業が必要となるのです。そのために解決しなければならない課題が3つありました。1つが、技術的課題。2つ目がマーケティング的課題。最後にロジスティクス的課題です。

   

1.技術的課題

今まで問屋の配送ネットワークを使っていたA社にとって、解決しなければいけない技術的課題は、今まで問屋が当然対応していた「多品種少量・小口・短リードタイム・小規模多数の配送」に、配送圏が非常に大きくなってしまうRDCで対応しなければいけないということです。そのための技術革新として、合理的なセンター運営体制・配送体制と、それらを効果的に繋ぐ情報ネットワークシステムが必要となります。センター運営では、大量の商品を保管しつつ、それを仕分けし、短時間で梱包して、それらをさらに情報システムに伝達することが必要となります。また配送では、地域ごとの配送拠点への配送順序や、顧客の在庫状況に合わせて直接納品するなど、高度な管理体制が必要となり、センター運営と同様、それら情報システムをうまく伝達することが必要です。また、その情報システムは、単に作業の管理だけでなく、生産拠点から販売拠点をオンラインで結び付け、リアルタイムで販売と物流を同期化させて、RDC内の多くの活動をサポートすることも重要です。

   

2.マーケティング的な課題

マーケティングとは、主に4つのP(Product:製品、Price:価格、Promotion:販売促進、Place:場所)を管理することと定義されていますが、どちらかというと、最初の3つばかりが強調されることが多く、4つ目の「場所」は、どの「場所」で販売するということもありますが、それと同時に必要な商品を必要な時に必要な「場所」でという「場所」の考え方もあり、現在のマーケティングには、顧客サービスの差別化という観点で非常に重要なポイントとなっています。それぞれの顧客をセグメント化(階層化)し、どのような商品を納品しているかによって、どんなサービスが必要とされているかを理解すること。この「場所」という考えがマーケティングの発想の起点とも言えるのです。例えば、生鮮食品を出荷している顧客と、乾物を出荷している顧客とでは、必要なサービスも違ってきますので、そのための流通コストも違ってくるのです。このように、マーケティング的な課題を明確化することは、重要なRDC設計のテーマなのです。

   

3.ロジスティクス的な課題

RDCが物流ネットワークとして位置付けられるのは、その範囲が中間の配送センターの統合、集約だけによって、構成されたものではないからです。RDCが設計される場合、そこには必ず生産拠点から市場の最終配送先までの流れを想定した全体構造の中で管理する拠点として役割を求められます。言い方をかえるならRDCを設置することによって、「それから先の最終顧客への配送」と「さかのぼって生産拠点までの流れ」を総合的に(トータルの流れとして)作り上げようという意志が働くのです。それは単なる物流拠点ではなく、それまで配置されていた多くの複数の企業による物流拠点を統合し、各段階でのその配置を組替えたものでもありますし、また全く新しい物流拠点の設立でもあります。つまり、物流拠点の前後で関わる様々な情報を集約し、計画・分析していき、いかに合理的で高品質、高付加価値な流れを構築することができるかが重要になるのです。

    

以上3つの課題を、自社の課題に置き換えて検討したA社は、作業コストや運送コストなど、前年対比で20%減少させることに成功し、さらに在庫圧縮、品切れ防止など、素晴らしい結果を残すことができています。ただし、これらの成功を収めつつも、A社は、継続的に物流ルートの検討と選択を行っています。A社が積極的な営業活動をすれば、新しい物の流れが発生し、それに合わせて物流の計画を検討する必要があるからです。阪南倉庫の取り組みは、お客様とこのような経営の部分までご一緒して、これからの物流のキーになる時間という概念にまで踏み込んで、打合せすることにより、最適な物流を設計することを目指しているのです。

   

   

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