在庫についての事例、連続掲載になりましたが、今回でひとまず最後にしたいと思います。今までお話しした在庫管理の仕組みは、①売買の基本ルールを明確に定めることで流通在庫を管理する、②在庫を見える化と社内標準化・共通化で管理する、ことでした。私たち倉庫会社にとって非常に重要なテーマである在庫ですが、その最後のポイントは、「発想の転換で管理方法の目線を大きく変える」ということです。できる限りわかり易くするために、今回も事例をもってお話ししたいと思います。
自社開発の日用品を自社店舗で販売している会社A社は、大手量販店から独立し、生活者の視点で衣料品、家庭用品、食品など日常生活に必要な商品を、環境面での配慮を持ちつつ、シンプルでリーズナブルに提供している企業で、設立以来爆発的な成長を遂げてきました。ただ、非常にコンセプトが明確な企業が、そのコンセプトを武器に大変な速度で次々と出店することにより大きな成長を遂げていましたが、出店計画が落ち着いたときに大きな試練が待っていました。「出せば売れる。そんな時代が続き、需要に対する見方が甘いままだった。」A社の営業本部長が反省している通り、衣料品を中心とした商品の廃棄損(つまり余剰在庫の廃棄処理)や評価損(販売価格が維持できないと判断されて安く評価されること)で数十億円もの特別損失を計上し、利益を圧迫してしまいました。つまり、在庫過多による弊害です。十分な収益がでているA社だからこそ、このような対応ができましたが、経営状態が厳しい会社だと、倒産に繋がりかねない大問題でした。このような在庫過多に対してのA社の対応は大胆でした。最初に行ったのは、商品の大幅改廃でした。営業側の立場としては、お客様に沢山の商品を見て頂くために増え続けた3万SKU(サイズ、色などの分類も入れた商品品種のこと)の商品について、それぞれの商品区分で類似しているような商品を集約。さらに、改めて数値的な分析と売り場での流れを検証し、品種を半減。それにより商品の企画や開発、そして在庫管理をし易くしたのです。
続いて行ったことは、商品群ごとに設定されていた商品の企画から開発、生産、販売に至るまでのリードタイムを短縮化することでした。一般的には半年単位で進められるリードタイムを、半減するためには、営業や生産が個別に行う改善ではなく、考え方や目線を抜本的に変革し、それぞれの部門のあいまいな管理基準を全社的に明確にして、在庫も減らす方法を考えたのです。つまりサプライチェーンマネジメント全体の改革からスタートしたのです。その具体的な内容は、生産計画から原材料調達、お客様の受注から、出荷までの全体のプロセスを細分化して把握、見直しをかけ、ぎりぎりまで商品を作らなくてもすむ「販売連動型短期生産システム」を構築することでした。例えば、最初に全部署が共同で年間の店舗販売イメージを作って、商品構成を定めます。その上で戦略的にどのように各商品を企画するのか(例えば低価格で大量に供給するのか、定番品で安定的に供給するのか、特別に限定的に供給するかなど)を定めます。その上で各戦略に合わせてのリードタイムを算出し、コストを上げることなく、それをどう半減するのかを全部署が一丸となって考えたのです。続いて、製品原料の調達を変化させて、共通原料を増やし適時工場に供給できる仕組みを考えたり、企画段階で副資材の管理体制を徹底し、メーカーと共通のシステムを立ち上げたり、多品種少量を前提にした製造ラインに見直したりなどです。さらに、生産・物流拠点の再検討、需要予測の精度向上、社内情報ネットワークの再構築、取引先との情報交換性の向上など、企業として総合力が問われるものであり、A社は経営戦略の基本方針を「在庫削減」としましたが、お客様の満足度を落とすことなく、その方針を実現するために、品種の絞り込みとリードタイムの短縮という具体的な行動指針と数値目標を掲げることで、その方針を実行できたのです。
このテーマの事例集で、連続4回もお話ししましたが、実際に在庫を管理するということは、いろいろな部署が絡んでいること、またそれぞれの部署が違った目標を達成するために、せめぎ合っていることなどが原因で、非常に難しいことをお分かり頂けていると思います。本当の意味で在庫を管理するということは、その部署を超えた管理目標を設定し、目線を変えて在庫やその関連の数値などをわかり易く管理することが重要となります。その意味では、阪南倉庫のように部署をまたいで、物流という共通のテーマでお話することができる会社が、本当の意味での在庫管理を作り上げることができれば、それはお客様にとって何物にも代え難い最高の顧客サービスになりうるのです。
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