前回に引き続き「在庫」をキーワードに、その管理方法について事例をもって考えていきたいと思います。会社の発展の指標や活発な企業活動の指針になる在庫。ただ、その在庫を適切に管理することが出来なければ、在庫は増えてしまう傾向が強く、その結果経営を圧迫してしまいます。ただ、その適切な管理の実現がどれだけ難しいのか、実際に在庫管理に携わった人はご存知だと思います。
原則として、生産工場から販売店舗までの在庫を減らすためには、まずはその全体的な流通上でのすべての在庫(以下流通在庫と呼びます)の把握から入らなければなりません。その流通網から最終顧客に、円滑に商品を供給する仕組みができることにより、全体的な流通在庫を圧縮、つまり適切に管理することが可能になります。その逆に、欠品などが続出するようないびつな流通網だと、その欠品の修復のために、ムリ・ムダ・ムラが発生し、流通在庫は増えてしまいます。ただ、流通在庫管理という複数の会社を横断した環境整備は、会社の枠組みを超えて管理できる体制の構築になり、その実現は困難です。それは流通在庫を管理するために、企業間の壁を超えて情報を開示し在庫リスクを共有化することが必要ですが、実際には売り手と買い手の駆引きから、取引先相手に値切られないように自社の実情を隠したり、有利な条件を引き出すために情報を極力抑えたりしていることにより、実現しにくいためです。
では、実際にしっかりと在庫管理できているところはどんな会社でしょうか。関係する複数の会社がそれぞれの強みを十分に発揮しながら、協力して顧客によいサービスを提供できる仕組み作りを考える。ユニークな例で、日常生活雑貨商品(以下日雑品と呼びます)のメーカー卸であるA社があります。通常、日雑品は、それぞれの商品の内容や取扱い方法、メーカーの特性などにより、様々な取引条件を各々に設定しており、またメーカーがA社のような卸業者に提供する販売奨励金(リベート)なども当然のごとく横行しています。そのような取引上の不透明性をできるかぎり排除しようというのが、A社が考えた全体流通在庫管理のための、情報共有化の第1歩となりました。
まずA社が最初に行ったことは、販売卸業者に対して、商談毎に設定していたリベートの廃止でした。ただ、リベートを廃止した代わりに、取引量や事務軽減への貢献度などに応じた取引ルールを設定し、例外無しにすべての取引先に通達、適用したのです。その取引ルールの一例として、「10トントラック1車分の発注なら、出荷価格を1.5%値引きすること」、「発注方法を、EDI(電子データ交換)化し、その発注量が全体発注量の98%を超えた場合は、出荷価格の0.2%値引きすること」などです。次にA社は、小売業者に対して取引ルールを新しく設定しました。A社は顧客に売る小売り業者にも販売していましたが、同業の卸業者にも多く販売していました。今までは販売先である同業の卸業者に遠慮して、ほとんど取引していなかった小売業者と、ある条件を満たしたときのみ取引を開始しました。その条件は、小売りでのA社製品のPOS(販売時点情報管理)情報つまり、レジの情報をA社に提供するなら取引するというもので、しかも卸業者と同条件で商品を直接仕入れることができるようにしました。これにより、A社は今まで受け取ることができなかった、販売時点情報を得ることができ、その情報をメーカーや工場に公開する事により、流通在庫を減らすことに成功したのです。
A社は卸業者を取り除いた取引を条件付ですが行ったことにより、卸業者からの反発を受け、一時的に売上を落としましたが、流通在庫削減のためには、企業間でリスクを持ち合い、合理的で透明な取引環境が必要であるという強い信念を基に、上記の取引ルールを継続的に実行、それにより、在庫削減という効果だけでなく、取引ルールの合理的な方向へ次々に変化し、流通網全体の合理化が実現し利益を増やすことに成功したのです。阪南倉庫のような物流企業が、実際に流通在庫をコントロールするためには、例えばA社のように取引ルールを設定する際の基本条件(流通上での物流コストの処理作業別の具体的な提示)を明確化することが非常に重要になります。その他、流通上での様々な条件を、客観的に判断し、またルール化することも、阪南倉庫が総合物流業者になるためには、非常に重要な条件となってくることでしょう。
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