今、国が本気になって変えようとしていることがあります。行政手続きの電子化です。今、国民の多くがコロナ禍で行政手続きの複雑さや困難さに直面し、その解決に向けての変化を求めている中、その切り札として進められているのが、マイナンバーカードの推進と各種手続きの電子化です。今まで個人情報保護の観点から、個人が持つ個人番号と連動した様々な情報は、各省庁や自治体では共有していませんでしたが、今後はすべての個人番号が持つ情報が、共有されていく社会が実現し、圧倒的に情報処理のスピードが上がります。このような情報処理スピードを向上させる方針は、実は法人と呼ばれる会社でも実施されており、平成27年より法人番号が各法人に発番され、行政面の手続きはもちろん、企業間の情報処理にも活用できる方向性が広がっています。マイナンバーも法人番号も、開始当初は紙による管理の置き換えとして電子化を進められていましたが、圧倒的な情報処理のスピード向上のためには、すべてデジタルを前提としたデジタル化が重要になります。その中で、いまだに会社内で紙が多く、それを管理するために手間がかかっている部門は請求、支払いの管理をしている部門です。今回の事例では、物流会社とその親会社が請求管理業務をデジタル化した事例を通して、今後のデジタル化の流れを読み解きたいと思います。
大手食品メーカーの物流子会社であるA社は、親会社の多種多様な食品の物流を担い、国内外に幅広い物流ネットワークを持つ会社です。非常に大きな親会社の得意先様は、食品卸や大手量販店、専門店、ドラッグストアーなど多岐にわたっており、その事務処理を一部代行していたA社は、これまで紙ベースで印刷・郵送していた納品書や商品明細、請求書は、莫大な数量でした。A社は、電子化の大きな変化を先取りして、親会社や得意先様と連携し、請求管理業務などを電子帳票管理システム(電帳システム)の構築に乗り出しました。最初に着手したのは、親会社との情報連携でした。A社は、個別に物流管理システムを導入していたのですが、そのシステムと親会社の基幹システムとは、業務指示系の連動しかなく、在庫管理や支払いや請求に関わる情報、さらに得意先様に関わるマスター情報の共有などは行われていませんでした。まずは、この連携性を高めるところからスタートしたわけです。入荷時の仕入れ計上、出荷時の売り上げ計上、それと連動した支払い、請求管理、そして在庫情報の連携です。ここで、このシステム連携を実施するために、両社間で発生していた紙の量を確認したところ、なんと月に数十万枚の紙がやり取りされ、それぞれその紙の内容の確認にも莫大な時間を要していました。どのような情報がどんな形式で、どんな頻度でやり取りされているのか、しっかりと調査した上で、それらを徹底的に電子化したのです。
次に着手したのは、250社以上ある得意先様との連携です。A社は、親会社から業務依頼を受けて、月数万枚単位の請求書の印刷・封入・郵送を行っていました。また、得意先様の要望にも柔軟に応えており、個別の伝票での対応や、在庫の証明書まで郵送している得意先様までありました。導入にあたっては、得意先様毎にどのような情報交換をしているかを洗い出し、その上で基幹システムとの連携強化により実現した各種データを、WEBで閲覧できる仕組みを構築することにしました。得意先様に対し、請求書などを電子化し、電帳システムで得意先毎に自動振分け(ここで前述した会社のマイナンバー法人番号が力を発揮します)、請求書が作成されたことをメールで自動配信し、得意先ではメール着信後、ブラウザから電帳システムにログインして請求内容を確認し、必要に応じてダウンロードや印刷などを行います。さらにこれまで郵送していたほかの書類やCSVファイルのデータもサーバからダウンロード可能としました。お得意先様でアプリケーションをインストールする必要がなく、ユーザーインタフェースも分かりやすいので、スムーズに運用切替えができました。また、今まで郵送していたものをメール送付に切り替えるため、得意先のメールアドレスやパスワードの登録には細心の注意を払い、試験送信なども行いながら何度もチェックを重ねて、得意先様への理解を高めていったのです。
この事例でも、わかるように電子化の入り口は、業務内容の把握と分析。さらにそれに関連する書類とその役割の明確化です。その上で、共通する情報や処理は、標準化して、スピーディーに情報公開していく。これらを、今回の事例では物流子会社のA社が実現していることが非常に重要です。実は電子化する情報は、そもそも倉庫に集積されており、その情報をうまく活用することで、サプライチェーン上の電子化が進む。今後国が進める電子化のカギは、案外倉庫会社が担っているのかもしれません。
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