全3回連続の事例集ということで、書かせて頂きましたサプライチェーンマネジメント(SCM)導入の失敗事例について、今回は、3つのテーマ①新しい業務プロセスと社員の意識にギャップ、②部門毎のビジネス特性や地域毎の環境の違いを考慮しないで横展開する、③SCMを川上から川下まで一気通貫に広げる際に、業界の標準化の遅れなどが支障となる(サプライチェーンの拡張)の、③について事例を合わせてお話ししたいと思います。
繊維メーカーであるA社は、一般的なアパレル会社と同じで分業制で商品を生産・販売しており、その生産から販売までの流れは、サンプルなどを作った上で、年に2回展示会を開いて受注状況を確認しつつ生産を計画し、6か月単位で生地の発注から、染色、縫製までを行い、小売事業者に販売するといったものでした。ただ、得意先である小売り事業者の多品種少量の注文に対応するために、製品や仕掛品在庫が増加。その上、小売事業者の厳しい価格競争に応えるために、コストダウンを余儀なくされ、その活路をSCMの導入に託すことにしました。このプロジェクトは、織り工場や染め工場などの複数の工場と協力しシステムを導入し、発注から納期までのリードタイムの短縮を目的に、SCM上の在庫の見える化、協力会社の生産期日の管理、小ロット多品種の生産に対応できるような仕組みへ変化させました。この取り組みにより今まで6ヶ月かかっていたリードタイムを、半分の3ヶ月まで縮めることに成功したのです。さらに、製品在庫圧縮と商品回転率の向上に成功し、資産の流動化に成功しました。この大きな成果は、サプライチェーン上の協力会社の利益向上に繋がる筈でした。しかし、実際ふたを明けてみると、予想の数分の1くらいの効果しか出なかったのです。
実際にシステムを共有することにより、分業先の会社が様々な情報、つまり自社がいつまでに何をどれだけ求められているのかが、早いタイミングでわかるようになりました。この情報を生かして、なんとか、それぞれの企業が作業を進めていくことにより、リードタイム短縮には成功したわけですが、分業先の企業のコストは逆に上がってしまい、製造コストがあがることにより、サプライチェーン全体のコストダウンは実現しなかったのです。では、そのコスト増加原因は、その点にあったのでしょうか。まずひとつは、情報システム導入コストです。この仕組みは、あくまでもA社専用の仕組みであり、標準化されていない仕組みの導入費用はA社と分業各社の折半でしたが、この仕組みの他社への転用ができないためにそのままコスト増に繋がりましたし、またいままで一度で良かった生産管理のための入力作業も、もともと使っていたシステムとSCMシステムの2本立てで行わないといけなくなり、これもコスト増となりました。また、小売りのお客様からの注文方法も、標準化されていないことから自動化できず、入った注文と元々計画していた生産計画との予実管理などの作業は、A社の担当が手作業で行っていたため、この作業費用も増えてしまいました。さらに最も深刻なのは、短納期実現のために、原料や仕掛品を余計に持つことが増えて、分業先の在庫は膨らむ結果となり、全体最適とは程遠い結果となったのです。
ここでの課題は、繰り返し書かせて頂いた標準化です。この時導入されたSCMシステムは、総合システムであり、この仕組みの中に「会計」、「販売」、「物流」、「生産」などすべての管理業務が含まれています。そのために各分業会社は、個別に生産管理システムとして、このSCMを導入したものの、他の企業では使えなかったのです。ただ、最近SCMシステムは上に記述したすべての管理業務を持たず、各社の管理システムと連携しデータの受送信のみ自動化することにより、全体的な業務の情報と流れを集約し、管理する流れが生まれています。このような仕組みの中では、それぞれ分業化された企業が、その業務が自動的に、標準化され、重複することなく運営できるため、非常に合理的に管理できるのです。これは、最近の非常に優れた翻訳機があれば、世界各国の人と会話ができるのにも、似ているのかもしれません。言語が違う人々とのコミュニケーションを実現するためには、会話の助けになる翻訳機(システム)と会話したことの記録(標準化)が必要となるのです。
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