前回でも説明した通り、リードタイム管理は経営上重要なことはもちろんのこと、これからのロジスティクスを巡る活動の指針となります。その管理上での4つのポイント「①提供するサービスの明確化、②生産から供給までのサイクルの構築、③受注管理の徹底、④物流ルートの検討と選択」の中、①提供するサービスの明確化について、事例を通して研究していければと思います。
PC販売会社であるA社は、学生であった創設者が、旧式の某有名会社のPCを地域の小売業者から購入して、大学の寮で自らアップグレード(機械の性能を上げる処理)をし、消費者へ非常に安い金額で販売することから始まっています。それから3年の歳月を掛けて、それまでの某有名会社のPCをアップグレードするというビジネスから、自社ブランドの販売ビジネスに業態を変化させていったのですが、そのA社は、提供するサービスの明確化という点では群を抜いていました。A社の選択したサービスは、「顧客へのダイレクト販売」に根ざしたものであったのです。
そもそもPC産業界の上位企業は、PCそのものに非常に高い機能を付加しようと競争していました。それらの企業が製造するPCは、需要予測に基づいて一定量生産されています。また大企業のPCの販売方法は、小売店や代理店に任せたものであり、実際にお客様に商品が届くまでに、複雑な販売ルート上の倉庫や展示の棚に眠ることにより、少なく見積もっても2~3ヶ月は必要になっています。このような販売に至るまでのゆったりとしたリードタイムは、PC業界に2つの大きなリスクを負わせることになっています。
まず一つは、部品についてのリスクです。PC製造コストの約80%は、部品コストです。ただ、その部品は年平均30%の勢いで下落しており、これらの部品が売れ残る時間が長引くにつれ、その価値を失ってしまいます。第2に、これは、1つ目の問題とも関係しているのですが、技術の急速な進歩により、PC価値が下落してしまうというリスクです。PC市場での、価格の設定は、「スペック(機械性能)」と直結しており、その性能の優位性が価格を支えています。そのスペックの急激な向上は、価格の下落を生んでしまうのです。このリスクのために、大企業であるメーカーは、小売業者に対して在庫処分の補償をしたり、また安く売れる国への巨額の物流費を支払ったりする結果となっています。
ここで、A社の話に戻ります。A社は、ダイレクト販売という企業戦略を打ち立てたことにより、そのリスクに対しても優位に事を運ぶことができました。A社の戦略に基づく基本サービスは、
①お客様が欲しいスペックを準備すること。(過度な技術の提供ではなく、必要な技術の提供を心がける)
②注文や修理など含めてお客様と対話すること。(お客様の必要なものやサービスを吸い上げる仕組みを作る)
③注文から納品までのリードタイムを短くすること。(個々の注文に対してのリードタイムを明確にし、その短縮化の努力をすること)
④コストの優位性を確立すること。(→部分的なコスト削減ではなく、サービスに根ざしたコスト削減を実行し、価格に反映させること。)
です。次回は、A社がこのサービス項目別にどのような活動をしているのかを検証したいと思います。
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