以前のこのブログの用語集で、「小売り主体の物流」でお話ししましたが、多くの皆様が買い物をして商品を購入する場合、それがネット通販であれ、様々な形態のお店(コンビニエンスストア、百貨店、スーパーマーケットやホームセンター、地元の八百屋さんや魚屋さんなど)であれ、対面する販売の窓口を一般的に小売業と呼びます。この小売業の中で、成長著しいのが「インターネット通販」と「製造小売り」です。今回は、その製造小売りについて、その企業の製造小売業に業態変化し、その戦略に合わせて物流をどのように変化させたのかの経緯を、事例集としてお話ししたいと思います。日用雑貨の販売店をしていたA社は、ライバルの専門店や全国のチェーン店との差別化を図るために、3つのポイント(独自の商品企画、低価格戦略、購入後の配送サービスなどの高サービス実現)を重点的に実践し、地元エリアに店舗を増やしていました。
転機になったのは、円高に大きく振れた1990年代、海外メーカーからの仕入れに大幅にシフトした時で、オリジナルの自社商品を企画・生産し、安く販売することが可能となり、店舗を増やすことに成功しました。ただ、一気に輸入比率を増やすことで起きる物流の課題は、在庫の大幅な増加です。それまで、国内の生産拠点と時間調整した上で納品してもらっていた流れを、海外の生産拠点で作った分だけ買い取って輸入することにより、時間調整機能を国内の自社物流拠点で対応することになったのです。その結果、生産後輸入されて倉庫に入荷してから、各店舗に出荷されお客様に購入頂くまでの時間的なギャップをすべて物流センターが負うことになり、実際に在庫回転率が半分から三分の一に悪化しました。ただ、この頃から、3つのポイント(独自企画商品、低価格戦略、サービス強化)を徹底することで売り上げを伸ばし、大幅に店舗数が増加し、滞留した在庫を新店舗に出荷することで、その在庫を吸収することが可能となり事なきを得ます。ただ、取扱物量の圧倒的な増加による、物流拠点の処理能力の向上は必須となり、A社の慢性的な物流拠点不足は、今後大きな課題となっていきます。
また、大きな課題といえば、A社の差別化戦略の一つである配送サービスなどの高サービス実現です。A社は、創業当初から自家物流で対応していました。集約された物流拠点から、お客様の要望に合わせてA社社員が軽トラックに積み込んで配達すると同時に、店舗周辺にお住いのお客様には、各店舗にも配送サービス員を配置して対応していました。これが、店舗がどんどん増えて、配送エリアが拡大していく過程で、変化していきます。限られた在庫で、限られた物流拠点で、限られたお店でサービスを提供しているときは、お店の片隅を配送拠点にして、店員が商品を届けて、そのサポートを物流センターが行うことで対応できていました。それが大量の在庫を、大きな広告をだして大量販売し、その商品の供給を全国の物流拠点とお店で対応するとなった時に、そのサービスの対応の難しさに直面します。そもそも、それだけ大量の商品をお店には置けないので、お店を配送拠点としては使えないですし、店頭だけの対応だとお客様をお待たせすることが増えてしまいます。実際に待たせずにお客様に配送するためには、地域ごとの配送拠点が、在庫型の物流センターとは別に必要になります。複数の物流センター、複数の配送拠点、多くの店舗との店舗毎に対応する非常に多くのお客様へのサービス。そこに在庫のバランスを整えるためのコストも合わせると、A社の物流コストはうなぎ登りに上がってしまったのです。
これらのコストを削減するために、A社は自社システム開発を行い、個別のコスト削減ではなく、全体的なコスト削減、つまり全体最適の道を試みました。部門を横断する仕組みの構築により、見える化、計画化、標準化、平準化、機械化の5つの変化を実現し、各部門で発生する課題や制約条件を解決することに成功したのです。例えば、ある商品が海外の生産拠点で100個生産されている中、システムにより1か月くらいのリードタイムでお客様にお届けできることは把握しています。ただ、現時点で物流センターには、在庫が50個しかない場合、お客様の注文が初日10個、二日目10個、15日目10個と毎日10個注文を頂くと、5日で物流センターから在庫がなくなり、しばらくお客様に待って頂いた上で、1か月後に一度に納品される形になります。もし、この毎日の注文の中身が確認でき、急ぎで納品してほしい届け先は5件で、あとの10件は1か月後でもいいよという注文があった場合、その納品情報などを細かくつかんでいれば、生産工場からの輸入の仕方や、物流センターの使用方法、配送の効率など非常に合理的に動かすことが可能となります。まさしく、現場で発生する課題や制約条件を解決できている訳です。
A社は、現時点で製造小売り事業者として成功しているために、それを知らない人からすれば最初からうまくいっている印象を受けることも多いと思います。ただ、事例を見て頂いてお分かりのように、本質は規模が小さい時代からしっかりと自社の強みや弱み、解決すべき課題に向き合うことで、行動指針を明確にしてできることを確実に実行しています。そういう意味では、どのような成長産業であっても、千里の道は一歩からですし、当社も改めて自社の現在地をしっかりと把握して、前進していきたいと思います。
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