今回も引き続き物流用語についてお話しいたします。前回少しお話した運用面での定型書類について考えたいのですが、おさらいとして、お客様からの業務委託を受けて、阪南倉庫のような物流会社が準備すべき書類は、サービスを明確にするための「SLA(Service Level Agreement:サービス水準合意書)」、どのような流れで運用するのかを明確にする「業務フロー」、どの業務をどこで何時に何人作業するのかを明確にする「業務別人員配置表」、倉庫内のどこでどんな機械を使ってどのように運用するのかを図面化する「業務レイアウト図」、それぞれの作業内容と手順・注意事項などを明確にする「作業手順書」などが挙げられます。これらの用語の中で、とくに一般的に皆様が聞き覚えのない言葉がないでしょうか。言葉を見ただけで想像できない、恐らくSLAつまりサービス水準合意書という言葉がそうだと思います。今回はこの言葉についてお話ししたいと思います。
弊社管理職のメンバーの中では、比較的なじみのあるこのSLAという言葉ですが、物流関係の会社で広く使われているものではありません。この言葉は、2000年代前半にアメリカで、様々なソフトウェアがインターネット回線を通じてサービス提供されるようになった時に生まれます。サービスを提供している事業者は、インターネットをできるだけ簡単にお客様に提供するために、わかり易いサービスを構築したのですが、その範囲・内容・前提事項など明確にする必要がありました。そのサービス事業者とお客様との合意事項がサービス水準合意書つまりSLAでした。その後、日本で経済産業省が2008年に記したSLAの定義は、「サービス品質に対する利用者側の要求水準と提供者側の運営ルールについて明文化したもの」です。
実はソフトウェア業界では、このタイミングに大きな変化が生まれています。ソフトウェアを購入して導入する方式から、ソフトウェアを利用して導入する方針への変化です。それまでお客様はソフトウェアを購入後、自社でどのように使うとか、さらなる追加の開発を行うとか、自社の体制に合わせてどのように配置し、保守するとか、様々な決断を自分たちで行い、売り切ってしまった後はソフトウェア開発会社が負う責任はほとんどありませんでした。これが、利用型のソフトウェアの場合は、ソフトウェアの利用環境や定期的なバージョンアップ、保守やメンテナンスの対応体制など、サービス提供後も継続的に責任をもって関わらないといけない形に変化しました。そこで、そのサービスの基本内容について、記したものが生まれた訳です。これがSLA誕生の秘密です。一般的に情報システムのサービスから発生したSLAですが、昨今の多様化した物流サービスでも、ソフトウェアと同じように、指示された作業のみを行う請負業務ではなく、プロフェッショナルとして業務を受託する形態に変化する中で、明確な品質水準と運用ルールを定める必要が高まっているのです。
では、具体的にはどのような項目について、明らかにする必要があるのでしょうか。一般的なSLAを参考に、とくに物流サービスのSLA具体項目を列挙すると以下のようになります。
1.サービス概要(対象サービスとその範囲について)
2.取引関係の組織図の明確化(お客様や取引先、こちらの体制や連絡先)
3.前提条件(取扱商品・標準入出荷量・最大入出荷量・資材・業務範囲など)
4.サービスレベル(業務品質指標・情報セキュリティ・商品保険など)
5.サービスが達成できなかった時の対応(弁済、補償など。免責事項の明記も含む)
5.例外事項(物量波動・時間軸が守られなかった場合・在庫が溢れた場合)
6.機械関連保守(トラブル復旧時間、保守案内など)
今回、SLAについて詳しくお話いたしましたが、こうして内容をみると一般的な業務委託契約の先にSLAがあることが良くわかると思います。ただ、SLAと契約書の違いは、契約書は法律用語が多くわかり難いと感じる書類である一方、SLAはお客様とサービスについての基本とその運用ルールを定めるものですので、出来る限りわかり易く作る必要がありますし、サービスレベルを明確にするために数値化したり、定期報告をしたりなど運用し続ける必要があったりします。さらに、契約書は一度締結すると頻繁に変更されるような書類ではありませんが、SLAは定期的に改定することで、より高度なサービスを作り上げることができます。今回説明した運用の定型書類は、どれも非常に基本的な書類ですが、基本の設定がしっかりできないサービスは、高度に進化することも、トラブルに迅速に対応するスピードも、コストパフォーマンスが高い生産性も生むことができません。しっかりと基礎を身につけるためにも、定型書類が大切になるのです。
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