このブログから2月の掲載が始まります。今年のブログも、同じテーマでお伝えしたいことがある場合は、一度に掲載するように考えたいと思います。前回から始まった事例集、サプライチェーンの失敗の原因3つのテーマ、①新しい業務プロセスと社員の意識にギャップ(社員意識改革)②サプライチェーンマネジメント(以下SCMとする)を拡大する際に部門毎のビジネス特性や地域毎の環境の違いを考慮しないで横展開する(サプライチェーンの横展開)③SCMを川上から川下まで一気通貫に広げる際に、業界の標準化の遅れなどが支障となる(サプライチェーンの拡張)について、今回は次のテーマ②サプライチェーンの横展開について考えたいと思います。
電機メーカーであるA社は、経営者の「SCM改革は、一部の部門だけで実行しても意味はない。全社一斉に改革を断行し競争力を高める。」という明確なトップダウンのもと、一大プロジェクトチームを結成し、1年以内に全社的なSCMを実施する体制を構築する計画を立てました。A社が考えたSCMの仕組みは、最新の需要予測を含む経営統合システムを選択し、それを全社的に活用することでした。この仕組みは、部品メーカーに対する発注の確定を生産に着手するギリギリまで引き付ける一方、工場は週単位で生産計画を見直すことで、需要に柔軟に対応するというものでした。計画は開始当初順調に進み、部門によっては、数ヶ月で新体制に移行でき、計画以上のものが出来上がるのではという期待まであがっていましたが、実際にはできるところはすぐに実行することができましたが、できないところは一向にプロジェクトが進展せず、全社的なSCMの仕組みの完成は、無期延期のような様相になっていったのです。
では、なぜこのような状態にA社は陥ってしまったのでしょうか?答えは、今回のテーマにも隠されています。電機メーカーであるA社は、部門毎に様々な特性をもった商品を取り扱っています。例えば、大型家電(冷蔵庫・洗濯機など)モデルチェンジは数年に1回程度で、季節による需要変動はありますが、急に売れ行きが拡大したり縮小したりしない部門です。また弱電やOA機器などのように、技術革新が頻繁でライバル企業との競争が激しく、製品のライフサイクルが数ヶ月という短い部門もあります。さらに、販売先を考えても、家電専門のお店もあれば、幅広い生活用品を扱っているホームセンターのような店、通販事業など、商品の販売に至るまでの流れも全く特性が違います。ここでもう一度A社が行ったプロジェクトの導入方法を確認すると、今回の失敗の原因が明らかになってきます。A社のプロジェクトリーダーは、このプロジェクト導入にあたり、最新のSCMモデル(需要予測から受発注バランス管理までの一連の仕組み)を使うことにより、すべての部門で同等に改革が実行できると考えていたのです。
弱電やOA機器の部門の、導入テストの結果は散々たるものでした。需要予測により週単位で変動する生産計画は、需要の変化に応じて影響されるので、激しい市場の変化に合わせると、前回の生産計画と全く違う製品が大量に発注され、それに合わせるために、大量の部品在庫を持つ羽目になってしまいました。また、工場運営が、月単位から週単位になることにより、製造ラインの変更が非常に増えることになり、工場の作業負担の増大によるコストアップと納期遅れが発生してしまったのです。特に品種が多い弱電部門は最悪の結果となりました。ここでのA社の根本的なミスは、SCMモデルを考えるときに、自社の全部門を分析した上で、明確な成果を実現するためにどのSCMモデルを選択するのかを考えたのでなく、最新の良いと呼ばれるSCMモデルを単純に選択し、それを端的に横展開しようとしたことにより起こった失敗だったのです。一般的に棚卸とは、会社が在庫を把握するために行うための行動を指しますが、会社を法人という人と考えると、人生の棚卸として、自社がどのような商品を販売しているのか、市場でどのような位置づけなのか、どのような技術を持っているのか、どのような仕入れ先なのか、社内外の人財を持っているのかなど、振り返り把握することが、まずはSCM導入の重要な入口であり、その上でSCMシステム導入後も棚卸された自社の経営活動に適合するよう努力し続ける動機を持たせるために、各部署の目標設定が作れているかが重要になるのです。
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