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虫の目鳥の目魚の目ってなんだ?

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前回の用語集でお話したサプライチェーンマネジメントについて成功の秘訣を4つ(①情報ネットワークによる見える化、②関連企業の中心的な企業に対する提案、③商取引の規模が大きなところからの実行、④関連企業が受けたメリットを明示化しさらなる発展を試みる)をお話しましたが、実際にこの管理を推進し、成功裏に運営できている企業は少ないです。では、なぜ管理体制を構築できないのか、今回は事例集の中で、残念ながらサプライチェーンマネジメントの導入を検討して失敗した、その事例を見ることにより、管理の難しさと改革実現に向けた方向性を示したいと思います。サプライチェーンマネジメント革命に失敗した企業を研究すると、事例毎には様々な要因が挙げられます。例えば、業界の商習慣の壁に阻まれるケース、新規業務プロセスが頓挫してしまうケース、取引先が従来の取引方法に固執して改革が進まないケースなど、事例の数だけ違った要因があるといっても過言ではありません。ただし、その要因を分析し、根底に流れる要素を考えると、いくつかのパターンに分けることができるのです。

   

それは、①新しい業務プロセスと社員の意識にギャップがある:製造や販売、物流といった部門に求められる役割や業務の変革についていけずに、過去の常識の枠に囚われるケース、②サプライチェーンマネジメントを拡大する際に部門毎のビジネス特性や地域毎の環境の違いを考慮しないで横展開する:現場の状況を無視して実際に成功事例を持っている仕組みをはめ込もうとしたときに起きる失敗のケース、③サプライチェーンマネジメントを川上から川下まで一気通貫に広げる際に、業界の標準化の遅れなどが支障となる:例えば繊維や日用雑貨などで情報をやりとりする際に、業界別に複数の標準形式が存在することが障害となるケースなどに分類されます。まずは、①について具体的な事例でお話したいと思います。

   

大手日用雑貨卸であるA社は、近年SCMの一環として、需要予測と自動発注機能を併せ持つSCMシステムを導入し、特定の支店でのテスト運用を開始しました。この仕組みを簡単に説明すると、A社各店から得意先の小売店への単品毎の出荷実績と出荷頻度を分析し、欠品が発生しないようにする最低在庫(安全在庫)と、売れ行きの伸びなどを考慮した適正在庫を計算し、これに基づいてメーカーに自動発注することにより、在庫の削減と発注作業負荷の軽減を狙うというものです。このシステム化により、初年度でいきなり8%の在庫削減に成功しました。しかし、その反面、この仕組みの稼動から予想以上の欠品が続出し始めたのです。

   

開始当初は、この欠品の原因は、無理な在庫削減(安全在庫の計算違い)によるものであろうと考えられていました。しかし、調査が進むにつれ問題はそこにあるのではなく、発注量が定期的にはないが、特売で中量くらいの発注が発生する、中堅の小売店に集中していることがわかったのです。確かに小売店が特売を実施する場合には、通常発注量計算に当てはまらない販売数の増大が発生しますので、欠品防止のため、通常の計算値より発注数は増大させなければなりません。A社では、得意先担当者との商談により販売予定数量が比較的予想することが容易な特売の発注の流れを、営業担当者が情報を掴んだ時点で専用伝票に記入して仕入担当者に伝達することにより、特別に構築していました。では、今回のような事例がなぜ発生したのでしょうか?情報をしっかりと把握していたはずの営業担当者の話を聞くと、このような返事でした。「たかが10や20ケースの特売の注文なら、通常の在庫でまかなえるだろう。伝票を記入したり、仕入担当者に連絡したりするのも手間なので、伝達しませんでした。」1つ1つの数量は確かに少ないですが、特売の時期は往々にして重なるもの。そうなればあっという間に計算外の出荷が増え、SCMソフトで在庫削減が進んでいるだけに、欠品が多発してしまったというのです。

   

今回の例は、非常にわかりやすいですが、このように業務に対して社員の意識が薄いと、変化が起こったときに即時に対応できないのです。今回のA社は、SCMにより在庫は8%削減できましたが、この欠品騒動により、特売に欠品をだしてしまうという失態と、近年の不況ともあいまって、売上を15%以上低下させてしまうという結果になってしまいました。SCMとは、その名のとおり複数企業間の連鎖的な経営手法です。社員一人一人が自分の仕事をしっかりと理解し、業務改革に合わせた自分の仕事をしっかりと理解すること、つまり「虫の目」のように詳細に至るまでしっかりと見て、さらに自分の仕事の役割が全体の業務でどのような意味を持つのかを把握すること、つまり「鳥の目」のように高い位置から俯瞰的に全体を見渡し、最後に今まで業務や取引との関係がどのような流れだったが今後どのように変化していくのかを知ること、つまり「魚の目」のように潮の流れを的確に読んで生き抜く、そのような多角的な視点を持つ社員の存在なしに、実現不可能なのです。

   

   

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